フラナリー・オコナー『強制追放者』の感想  「世界の苦しみは、私の責任じゃないんだから」

 随分放置してしまって、ようやく上向きになってきたので久しぶりに読み返した筑摩書房から出ているフラナリー・オコナー『善人はなかなかいない』に収録されている「強制追放者」について感想を書いてみたい。

 タイトルの強制追放者(displaced person)とは主にナチス・ドイツによって連れ去られた強制労働者のことを指すらしい。
 この作品を読んで、今日の移民問題や震災がれき等の件を想起する人もいるかもしれない―この作家は人の悪や罪を描くのが本当に上手い、まぁそんな煩い関連付けしないで読んだほうが面白いと思うわ!

 話はポーランドからの強制追放者がアメリカの農場に雇われたというもので、その農場にいる二人の夫人が中心として進められていく。ラブロマンスではない。この話は他所から来た者に対する偏見や妬み嫌悪に満ちている、なんたって他所からきた新参者は実に有能なのである。 
働き者の移民に対する嫌悪感を題材にした作品はいくつもあるが、この「強制追放者」は移民を嫌悪し迫害する者の無責任で受動的な残忍さ冷酷さを経験させてみせる作品だと思う。
 「世界の苦しみは、私の責任じゃないんだから」といい「あの人の置かれた境遇をつくったのは、私じゃありませんよ」として移民を追い出すことを道徳的に間違っていないものとするマッキンタイア夫人の発言にはゾッとさせられた。
 

フラナリー・オコナー全短篇〈上〉 (ちくま文庫)

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